下肢閉塞性動脈硬化症 | 病気と治療方法
下肢閉塞性動脈硬化症

下肢閉塞性動脈硬化症とは?

下肢閉塞性動脈硬化症(かしへいそくせいどうみゃくこうかしょう、ASO: arteriosclerosis obliterans)は、下肢の大血管に狭窄をきたしたり閉塞することによって、軽い場合には冷感やしびれ、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気です。中年以降(特に50歳以降)の男性に多いと言われています。その他には、喫煙者・高血圧症・高コレステロール血症・糖尿病・肥満・慢性腎不全などがあると、この病気になりやすいと言われています。最近では、ASOのことをPAD(Peripheral artery disease)と呼ぶことが多くなってきています。

どんな症状がありますか?

病気の進行具合により様々な症状を認めます。有名なのがフォンテイン(Fontaine)分類です。

フォンテインⅠ度(もっとも軽症)
足先が冷たい、しびれる。足の指が青白い。
フォンテインⅡ度(中等症)
数十~数百メートル歩くと、足(主にふくらはぎ)が痛くなったりだるくなったりし、休むと症状が軽快します(このことを、間歇性跛行(かんけつせいはこう)と言います)。
フォンテインⅢ度 (高度虚血)
じっとしていても足が痛くなります。さすような痛みが常に持続する状態です。
フォンテインⅣ度(重症)
足先に潰瘍ができます。足が壊死(腐ってしまうこと)し、黒色に変色します。放置すると、切断が必要になってしまいます。通常激痛を伴いますが、糖尿病を持っている方は痛みを感じない事もあります。

その他、男性では、勃起障害(ED)をきたすことがあります。

間欠性跛行(かんけつせいはこう)

「跛行」とは、足を引きずるという意味です。間欠性跛行とは、目的地まで歩いている途中で、足の筋肉のだるさや痛み・こむら返りを自覚しますが、休憩すると10分以内に症状がよくなる症状のことです。少し休むと回復するので病気だと思わない方が多く存在しています。寝たきりの患者さんでは、症状が出ずに見逃されていることもあります。

どうやって診断するのですか?

問診・診察にて、比較的診断は容易ですが、整形外科領域の病気(脊柱管狭窄症:背中の神経が押されることで引き起こされる病気)でも似たような症状が出る時があるため、鑑別が必要です。診察では、足のくるぶしの近くの血管(後脛骨動脈)・あるいは足背の血管(足背動脈)が触れるかどうかなどを触診します。

続いて、ABI検査(足関節上腕血圧比:両手両足の血圧を測定する検査)を行い、下肢の血流が落ちていないかどうかをチェックします(糖尿病患者さんや透析患者さんでは、異常値が出ない時もあります)。

ABI検査で閉塞性動脈硬化症が疑われれば、下肢血管エコーや造影CT検査にて、どこの血管に病変があるかを診断します。最近では下肢MRIも行われており、造影剤を使用せず、かつ被ばくしないため、体に優しい検査といえます。また、CTでは評価しにくい石灰化病変(血管が石のように固くなった病変)に対しても、MRIは優れていると言われています。当院では、原則当日に下肢MRI検査を行うことができます(予約が必要な時もあります)。
最終確定診断には、入院のうえ、カテーテル検査が必要な場合もあります。当院では、原則1泊2日の入院で、カテール検査・治療を行っています。

どのような治療方法がありますか?

病期の進行に応じて治療を行います。治療には、薬物療法・運動療法・カテーテル(風船・ステント)治療・バイパス手術などがあります。また、生活習慣病に対する生活指導も重要であり、特に禁煙は非常に大事です。

<薬物療法>
主に、抗血小板薬(血をさらさらにする薬)と血管拡張薬が使用されます。

<カテーテル治療>
体外から動脈にカテーテルを入れて操作し、狭くなったり詰まったりした部位を、風船でひろげたりステント(金網を円筒にした人工血管)を留置して、血行をよくするのがカテーテル治療です。この方法は低侵襲であり、近年、飛躍的に治療成績が向上し、とくに骨盤内を流れる腸骨動脈の領域の治療に成果を上げています。当院では、原則1泊2日の入院でカテーテル治療を行っています。

<バイパス手術>
バイパス手術は、狭くなったり詰まったりした個所に、体のほかの部分から切り取った血管または人工血管を〝バイパス〟として取り付け、血流を確保する方法です。カテーテル治療に比べ、患者さんの身体的負担は大きいのですが、動脈の場所によって、この方法が有利な場合もあると言われています。

下肢閉塞性動脈硬化症の1例

ここで、閉塞性動脈硬化症の実際の1例を提示したいと思います。この患者さんは、左下肢の間欠性跛行を訴えて来院されました。
ABI検査両手両足の血圧を同時に測定します。非常に簡便な検査です。
  • ABI(治療前)下肢閉塞動脈硬化症の1例です。左足首の血圧が低下しており、左下肢の血管の狭窄あるいは閉塞が疑われます。(下図左)
  • 下肢MRI検査(治療前)ABI検査で左下肢血管の異常を指摘されたため、MRIにて足の血管を撮影しています。造影剤の投与は必要ありません。黄矢印で示した通り、左下肢動脈の狭窄が疑われます。(下図中央)
  • カテーテル検査(治療前)実際にカテーテル検査にて左下肢動脈を造影しています。矢印の部位が狭窄部位です。MRI検査の結果とほぼ合致します。(下図右)

  • ABI(治療後)治療後ABI検査で、左下肢の血圧が正常に戻ったことを確認できます。(下図左)
  • 下肢MRI検査(治療後)治療後狭窄がなくなり、左下肢の血流がよくなったことがわかります。(下図中央)
  • カテーテル(治療後)カテーテルで治療(風船による拡張術)し、狭窄がなくなりました。(下図右)

さいごに

下肢閉塞性動脈硬化症とは、動脈硬化の病気、すなわち血管病ですから、足の血管だけを治療すればよいわけではありません。特に気を付けないといけないのが心臓の血管です(心臓の血管は生死に直結することがあります)。当院では、下肢閉塞性動脈硬化症をお持ちの患者さんには、心臓の血管に関しても積極的に検査・治療を行っています。また、脳の血管に関しても十分に注意する必要があると言えます。足だけを見るのではなく、全身の血管に注意する必要があり、ひいては動脈硬化の原因となる生活習慣病の管理が重要になります。